暑い季節に増える熱中症は、命に関わる重大な問題です。特に子どもは大人に比べて発症しやすいと言われています。
子どもだけでなく、子どもにカメラを構え、写真撮影に夢中になっている大人も熱中症には要注意ですね。
なぜ発症してしまうのか、そしてどのように防げるのかを、スポーツの現場から考えてみます。
(※2024年6月15日 朝日新聞の記事を参考に要約しています。)
目次
学童野球チームの進む暑さ対策:休憩中の冷却と新たな工夫
山口市の徳地野球スポーツ少年団は、山あいの盆地で練習しています。取材した5月18日、市内の最高気温は30度に達しました。監督の松原映生さん(46)は休憩中、冷水につけたおしぼりで首や顔を冷やす子どもたちに、熱中症対策の大切さを伝えています。
「気持ちいい? 気持ちがいいということは、熱がこもっているということだよ」
バケツと氷はチームが用意し、子どもたちはおしぼりだけを持ってくれば良いのです。今年度のメンバーは15人。松原監督は、「子どもの命を預かっている。時代に指導者がついていかないと、その命も危ない」と述べ、できる限りの熱中症対策に努めています。
2年前から簡易プールを用意し、水を張った状態で練習しています。休憩中には手足をつけ、練習後には全身でつかる子もいます。経口補水液も常備しています。
服装についても、5年ほど前からTシャツに短パンなど、自由にしています。ただし、スライディングでのケガを防ぐためにストッキングは履きます。昨年からは、上着の裾をベルトに収めず、外に出しても良いことにしました。夏場の練習時間は土日を基本的に午前だけにし、練習試合も組まないようにしています。
しかし、地域の大会が8月に2つ開催され、午後も試合が組まれることがあります。勝ち上がれば、1日2試合ということもあります。
学童野球チームの過酷な日程と暑さ対策の取り組み
「高校野球の地方大会でも1日1試合です。高校生より体力がない学童には過酷な日程です」
学童野球の試合は2022年に7イニングから6イニングに短縮され、試合時間も1時間半の制限が設けられました。それでも2試合するとなると、炎天下で3時間となり、それが連日続くこともあります。
「日程や会場が押さえられないという運営側の事情も理解しますが、大会を減らしてもいいのではないでしょうか」と松原さんは続けます。
「私個人の考えですが、夏休みこそ子どもたちの思い出作りの期間だと思っています」
茨城県つくば市の桜学園ベースボールクラブは今年から、ヘルメットを白色に変えました。炎天下に置かざるを得ないヘルメットの熱を和らげるためです。
「ヘルメットはチームカラーのネイビーと赤だったのですが、暑さを考えると、そんなことは言っていられません」と監督の大崎将一さん(50)は言います。
黒色のスパイクも2021年に白地へ変更し、昨年には夏の練習時の服装を短パンでOKにし、今年からは同じ短パンに統一しました。
「体調の不安など、何かあったらすぐ言うように伝えています。無理は絶対にさせません」
子ども同士で声をかけ合い、少しでも異変を感じたら休憩する姿も見られるそうです。
熱中症対策の必要性:学校運動部での事故データ
日本スポーツ振興センターには、子どもたちが学校管理下で事故に遭った際の死亡やケガ、病気に対して見舞金や医療費を給付する制度があります。そのデータによると、2022年度の熱中症による給付件数は3184件にのぼり、高校が45%、中学校が39%、小学校が14%でした。
件数は2000年代に入って急増し、2010年度には4000件を超え、2018年度には過去最多の7113件に達しましたが、その後は減少傾向に転じています。
重大な事故も発生しています。1975年度から2017年度にかけて、熱中症による死亡数は170件であり、そのうち145件は運動部活動に関連していました。登山やマラソンなどの学校行事によるスポーツでは21件の死亡事故が発生しています。学年別にみると、高校1年生、高校2年生、中学2年生の順に多く、男子が9割を占めていました。
このデータは、学校運動部での熱中症対策がいかに重要であるかを示しています。
屋内競技における熱中症対策と信頼関係の重要性
熱中症のリスクは屋内競技にも存在します。日本スポーツ振興センターの資料によれば、2005年度から2022年度にかけて、学校管理下の体育・スポーツ活動中に熱中症で死亡見舞金が給付された23件の事故のうち、6件は体育館や屋内運動場で柔道、剣道、バスケットボール、フットサルが行われていました。
全日本剣道連盟は2020年から、指導者らに熱中症の発生状況を報告してもらうオンラインシステムを導入しています。報告は昨年までに計40件ありました。注目すべきは発生時の環境で、36件はエアコンが使われていなかったことです。同連盟では、稽古すべき環境かどうかを知るために、暑さ指数(WBGT)計を道場や体育館に設置することを推奨しています。
学童野球を取材すると、8月に地域の大会が多く、各チームが夏の活動をやめる選択肢を取りづらい事情が見えてきます。競技団体側が既存の真夏の大会を減らす、試合を午前中だけにする、といった見直しができないかと考えられます。
屋内外を問わず、指導者の重要な心がけについて、昨年の全国高校総体で優勝した茨城県立守谷高校剣道部の安田拓朗監督に話を聞きました。
「体調不良について素直に言える環境でないと、選手は無理をして大きな事故につながります。熱中症対策は多くの指導者が知っていますが、それでも起こるのは、選手との関係性に不備があるからではないでしょうか」
もはや熱中症対策は待ったなしです。普段から体調について言いやすい信頼関係を築いておくことも重要と考えられます。