サッカーボールを思いのままに操り、まるで遊んでいるかのように軽やかに扱い・・・。
蹴り上げたボールを腰を折りながら首の後ろで止めると、「すごい!」と小学生たちが驚きの声を上げました。
2002年W杯日韓大会で活躍し、ヨーロッパでもプレー経験を持つ元日本代表MFの小野伸二さん(45)。
2023年に現役を引退し、新たな人生を歩み始めました。現在は全国を巡り、サッカー教室を開催しています。
子どもが生き生きとスポーツを楽しむ姿。ぜひ写真に収めたいですね。
(※2025年1月6日 朝日新聞の記事を参考に要約しています。)
目次
小野伸二さんの「スマイルフットボールツアー」全国の子どもたちへサッカーの楽しさを届ける
昨年11月30日、小野伸二さんは新潟市にいました。
彼が開催する小学生向けのサッカー教室「スマイルフットボールツアー」の一環です。
この取り組みでは、全国に60あるJリーグクラブの本拠地を巡回しており、同年からスタートしました。
これまでに、南はFC琉球、北は北海道コンサドーレ札幌まで、15カ所を訪れています。
この日は、低学年と高学年向けの2部構成で、合計約3時間にわたりグラウンドで汗を流しました。
「サッカーをするのは初めてかな?」と子どもたちに問いかけ、手を挙げた子には、ボールを蹴るコツやリフティングのポイントを丁寧に指導します。
ミニゲームでは、ボールに触れる機会が少ない子を見逃さず、さりげなく優しく転がるパスを送ります。
「親に連れてこられた子もいるかもしれません。でも、それでいいんです。楽しかった、と笑顔で帰ってくれれば」
小野さんは、そんな思いを胸に全国を回り、子どもたちにサッカーの魅力を伝え続けています。
声を掛け合い、仲間と楽しむサッカー
別の会場では、こんな出来事がありました。
参加していた女の子が、途中で気後れしたのかピッチの外に出てしまいました。
小野さんは「一緒にやろう、やろうよ」と優しく声をかけ続けました。
すると、他の子どもたちも集まり、励ましたり、上手な子がコツを教えたりする姿が見られました。
「最後には、その女の子がとても楽しそうにプレーしてくれました。あの瞬間は本当にうれしかったです」
保護者の方もたくさん写真に収めたのではないでしょうか。
サッカーの魅力を伝える「伝道師」へ
子どもたちは大人の行動をよく見ている―。
小野さんは、改めてそのことを実感したそうです。
自身も「教わるよりも見て学ぶ」という考えを大切にしてきたため、より一層気が引き締まる思いがしたといいます。
「僕らは、本当に良い手本でなければいけません」
目指すのは「サッカーの伝道師」です。
その原点となったのは、中学生時代の経験でした。地元・静岡県沼津市で、辛口のサッカー評論で知られるセルジオ越後さんが全国で開催していたサッカー教室を手伝ったことです。
当時、日本代表はまだW杯に出場したことがなく、サッカーは現在ほどメジャーな競技ではありませんでした。
そんな中、日系人の元プロ選手だったセルジオさんが見せたブラジル仕込みの華麗な技術以上に、小野さんの心に深く刻まれたのは、その姿勢でした。
「とにかく子どもたちを楽しませようとしていました。それが、僕の原点です」
サッカーとともに未来を考える取り組みも
小野さんは、子どもたちと一緒にボールを追う前後に、約10分間、気候変動について話をしています。
スポーツだけでなく、学びの場にもなればという思いからです。
地球温暖化がこのまま進めば、2100年には日本各地で夏の気温が40度を超えるのが当たり前になるかもしれません。
子どもたちに、自分たちの未来について考えるきっかけを持ってほしいと願っています。
この日、小野さんは4~6年生と何度も3分間のミニゲームを行いました。
結果は、小野さんとコーチ陣のチームがほとんどの試合で負けてしまいました。
「大したことないって思ったかな?」
そう笑いながらイベントの締めくくりに語りかけた後、表情を引き締めました。
「勝てるわけない、と思ってプレーしたら本当に勝てない。でも、みんなは違った。それでいいんです」
「何事も自分次第です。強い気持ちと高い意識を持って、これからもサッカーを楽しんでください」
そして、この日一番表情が和らいだのは、休憩時間のひとときでした。
ひとりの子どもがボールを持って近寄り、自然とパス交換を始めたのです。
「ああ、サッカーがやりたいんだな。好きなんだな。良かった」
小野さんは、そんな子どもたちの純粋な気持ちを何よりもうれしく思ったそうです。
サッカーをもっと自由に、もっと楽しくしたい
小野さん自身、上達のために誰よりも多くボールに触れてきました。
しかし最近では、ボールが転がっていても誰も触ろうとしない光景を目にすることがあるそうです。
「習い事だから、やらされているからサッカーをしているのかな……と心配になることがあります。本当に好きなら、やりたかったら、自然とボールに触れるはずですから」
「やりたい。好き。だからこそ、自由にボールを蹴る。その感覚をもっと広めていきたいです」
理屈抜きでサッカーが楽しくてたまらない!そんな未来の世代を育てるために、小野さんはこれからも各地を巡り続けます。