ICTの活用が叫ばれる教育現場。もちろん、タブレット端末などの情報通信技術(ICT)の活用が進展しています。その利用範囲は教室内での座学だけではありません。体育の実技の授業現場にまで広がりつつあります。
いったいどんな使い方をしているのでしょうか。大変興味深い内容が見えてきました。
(※2024年10月2日 朝日新聞の記事を参考に要約しています。)
目次
体育の授業の可能性がICTによって広がる!帝京大学小学校の取り組みとは?
2024年、東京都多摩市にある帝京大学小学校。ある日体育館では、4年生の児童16人がマット運動に取り組んでいました。準備運動を終えた児童たちは、ステージ上に置かれた各自のタブレット端末の前に集まります。
児童たちは、アテネ五輪で体操団体金メダルを獲得した水鳥寿思さん(44)が中心となって開発したアプリ「スポテク」を覗き込んでいます。
このアプリにより、児童一人ひとりが挑戦する技の手本となる動画が画面に映し出され、それぞれの学習をサポートしているのだとか。
ですが、セキュリティー面や通信環境面の整備などの課題もあり、改善が必須だそうです。しかしICTの活用は、子どもたちが互いに助言し合いながら「考える時間」を増やす効果が期待されているとのことです。
児童たちが自主的に学ぶ、ICTを活用した体育の授業
児童たちは挑戦する技ごとにグループに分かれ、互いの動きをタブレットで撮影し合いながら、「こうしたらいい」とか「あれはどう?」などアドバイスを送り合っています。
教諭は安全を第1に考えながら、必要に応じて助言をしながらヒントを与えるなどし、児童たちをサポートしながら指導しています。
授業の最後には、その日に学んだことや気づいたことをタブレットに記録。例えば倒立ブリッジに挑戦したある女子児童は、「手が着いたら、足がおりてくるまで動かさない」と、自分自身の動きを振り返って改善点を記載しています。
タブレットとアプリが育む自主性と課題解決力
ICT活用で体育の授業はある意味進化をしているとのこと。
帝京大学小学校では、2023年度から体育の授業でタブレット端末と専用アプリを活用する取り組みを開始しました。
石井卓之校長は「アプリの力を借りることで、子どもたちが自ら考える時間を増やすことができる」と述べています。まさに「ICTを活用した問題解決能力の育成」です。
また、通信大手のソフトバンクは、今春から「AIスマートコーチ for スクール」というアプリの運用を開始しました。
このアプリは筑波大学などの専門機関と共同開発されたものです。例えば、縄跳び、マット運動、鉄棒などの技術を動画や解説で学べるほか、自分の動きを撮影して、お手本の動きとの一致度を数値化して診断する機能も備えているとのこと。かなりハイテクな機能が備わっています。
楽しさも広がる。どもたちの成功体験と教員の負担軽減も
スポーツ庁が2019年度に実施した調査によると、体育の授業が「嫌い」と答える子どもの数は、小学生から中学生に進学する段階で、なんと約2倍に増加していたことが分かりました。
運動がうまくできない経験が積み重なり、結果的に体育嫌いが増加していることにつながっていると考えられます。
アプリを開発した担当者によると、「アプリでは、それぞれのレベルに応じた課題に挑戦できる。色々な成功体験を通じて、子どもたちに体育の授業を『楽しい』と感じてもらいたい」と語っています。
この取り組みは、1人で全科目を担当することが多い小学校教員の負担軽減にもつながると期待されているそうです。
今後は通信環境の整備が課題
ICT活用が体育の現場でも進む中、課題も浮き彫りになってきています。
桐蔭横浜大学の佐藤豊教授(スポーツ教育学)は、2021年に文部科学省の委託を受け、保健体育におけるICT活用に関する全国調査を実施しました。
この調査には、学校教員や自治体の教育・行政の関係者約7600人が回答し、そのうち56%が学校の保健体育でICTを活用していると答えました。
しかし、具体的な利用方法については動画撮影にとどまるケースがほとんどだったそうです。体育用の専用ソフトやアプリを活用している学校は少なかったとのこと。
また、個人情報保護などセキュリティ面での課題も、導入の妨げとなっているそうです。
さらに調査では、通信環境についても課題があることが分かりました。
教室でのWi-Fi接続率は約97%と高い一方で、体育館では約75%、運動場やグラウンドでは23%。ソフトやアプリの機能を十分に活用するためには、通信環境の整備が欠かせないと佐藤教授は述べています。