たくさん写真に収めたい高校野球。でも暴力的な指導はいただけません。
未だに問題になっている学生スポーツの暴力的指導について考えてみましょう。
暴力的な指導がない高校野球を目指して、どのような取り組みが可能かについて、桐蔭横浜大学の渋倉崇行教授(52歳、スポーツ心理学)にお聞きしました。教壇に立つ傍ら、一般社団法人スポーツフォーキッズジャパンを設立し、指導者の研修活動にも携わっています。
(※2024年4月6日(土)朝日新聞朝刊の記事を参考に要約しています。)
目次
スポーツの楽しさを再発見、渋倉崇行教授の転機とは
桐蔭横浜大学の渋倉崇行教授は、1989年に新潟南高の投手として全国高校野球選手権に出場しましたが、その当時は野球に楽しみを感じていませんでした。彼には野球は苦痛を伴うものという価値観がありました。その後、日大に進学し野球部を退部した彼は、体育学科の授業で「スポーツは楽しいものだ」という教授の言葉に衝撃を受け、スポーツの新たな価値を学び始めました。この経験が後の指導者研修やライセンス化の必要性への考えに繋がりました。
スポーツにおける暴力的指導の背景の解析
スポーツにおける暴力的指導の背景には主に四つの要因があります。第一に、強固な主従関係が根強い縦社会の人間関係が挙げられます。第二に、体育館やグラウンドといった閉鎖的な空間で、主に一人の指導者が全権を握る環境があります。第三に、短期間での成果を求める圧力が暴力を引き起こす外発的な動機付けとなることがあります。最後に、尊敬する指導者が暴力的手法を用いることにより、選手はそれが正しい行動であると認識してしまう連鎖が生じます。これらの要因が複合して、スポーツにおける暴力的指導が発生しています。
高校野球と「甲子園至上主義」の問題点
高校野球には「甲子園至上主義」と呼ばれる特有の背景が存在します。この考え方は、甲子園を目標とすることが高校野球の最終目的であるかのように関係者や一般社会に広く受け入れられています。この結果、地方大会での勝利を重視するあまり、選手の楽しい体験や成長よりも勝利そのものが最優先される傾向にあります。この一辺倒の価値観は、暴力的な指導へと繋がることもあり、高校野球の健全な発展に影響を及ぼしています。
選手の自立を促すコーチングの重要性
適切なスポーツ指導には、自立型選手を育成するコーチングが求められます。このアプローチでは、選手が受動的に「やらされる」のではなく、自発的に「やりたくてやる」状態を目指します。このためには、課題の根拠をしっかりと説明し、選手自身に選択肢を与えることが重要です。また、選手の意見や考えを尊重し、主体的に行動する機会を提供することが大切です。このようなコーチングを行うことで、暴力的な指導に依存することなく、選手の自立と成長を支援できます。
スポーツ指導における制度改革の必要性
スポーツ指導において制度面での改善が必要です。特に指導者向けの研修機会の確保と、ライセンス制度の導入が急務であるとされています。野球界では他の競技に比べて、このような資格化の動きが遅れているとの指摘があります。また、トップダウンの指示に従う人材ではなく、自分自身で考え、判断し、行動できる人材の育成がこれからの時代には求められています。このような新しいスポーツ観を取り入れることで、持続可能な高校野球の未来が築かれると考えられます。